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東京地方裁判所 平成元年(ワ)10210号 判決 1991年3月27日

原告(反訴被告)

高橋工業株式会社

右代表者代表取締役

高橋信夫

右訴訟代理人弁護士

加藤豊三

長内健

被告(反訴原告)

大野四郎

右訴訟代理人弁護士

勝野義孝

小名弦

被告補助参加人

大成建設株式会社

右代表者代表取締役

里見泰男

右訴訟代理人弁護士

関根俊太郎

大内猛彦

坂東規子

主文

一  原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、別紙第二物件目録一ないし六記載の各建物を収去して、別紙第一物件目録記載の土地を明け渡し、かつ平成元年三月一日から右明渡済みまで一か月金六八万円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告(反訴被告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1(主位的請求の趣旨)

原告(反訴被告、以下「原告」という。)と被告(反訴原告、以下「被告」という。)との間において、原告が、別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、左記賃借権を有することを確認する。

契約年月日 昭和五四年頃

当事者 賃貸人―被告

賃借人―原告

目的  普通建物所有

期間  定めなし(借地法二条により三〇年)

賃料  一か月六八万円、毎月一一日払い

2(予備的請求の趣旨①)

原告と被告との間において、原告が、本件土地につき、左記(一)記載の被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)の賃借権に基づく左記(二)記載の転借権を有することを確認する。

(一) 契約年月日 昭和四〇年頃

当事者 賃貸人―被告

賃借人―補助参加人

目的  普通建物所有

期間  定めなし(借地法二条により三〇年)

賃料  一か月六八万円

(二) 契約年月日 昭和四二年一〇月二日頃

当事者 転貸人―補助参加人

転借人―原告

目的  普通建物所有

期間  定めなし

賃料  一か月六八万円、毎月一一日払い

3(予備的請求の趣旨②)

原告と被告との間において、原告が、本件土地につき、普通建物所有目的、期間の定めのない、賃料一か月六八万円、毎月一一日払いの賃借権を有することを確認する。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文一項同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴について)

一  反訴請求の趣旨

1 主文二項同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 原告は、昭和五四年頃、被告から、本件土地を、左記約定で賃借した。

目的  普通建物所有

期間  定めなし

賃料  当初額不明(最新の賃料一か月六八万円)

支払時期 毎月一一日に補助参加人を介して支払う。

2 仮にそうでないとしても、

(一) 補助参加人は、昭和四〇年頃、被告から、本件土地を、左記約定で賃借した。

目的  普通建物所有

期間  定めなし

賃料  当初額不明(最新の賃料一か月六八万円)

(二) 原告は、昭和四二年一〇月二日頃、補助参加人から、本件土地を左記約定で転借した。

目的  普通建物所有

期間  定めなし

賃料  当初額不明(最新の賃料一か月六八万円)

支払時期 毎月一一日払い

(三) 被告は、その頃、原告に対し、右転貸借につき承諾した。

3 仮にそうでないとしても、

(一) 原告は、本件土地につき、普通建物所有目的の賃借意思をもって、昭和四〇年から本件土地上に普通建物を所有して本件土地を継続的に用益し、補助参加人を介して毎月一一日限り被告に賃料(最新の賃料一か月六八万円)を支払ってきたのであるから、遅くても、二〇年を経過した昭和六〇年末には、被告に対する、普通建物所有目的、期間の定めのない、賃料一か月六八万円、毎月一一日払いの本件土地の賃借権を時効取得した。

(二) 原告は、右時効を援用する。

4 しかるに、被告は、本件土地についての原告の前記賃借権又は転借権の存在を否定している。

よって、原告は、被告に対し、主位的に、原告が本訴請求の趣旨1記載の賃借権を有することの、予備的に、原告が本訴請求の趣旨2記載の転借権を有することの、更に予備的に、原告が本訴請求の趣旨3記載の賃借権を有することの、確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1は否認する。

2 同2の(一)のうち、被告が昭和四〇年頃本件土地を補助参加人に賃貸したことは認め、その余は否認する。

(二)は知らない。(三)は否認する。

3 同3の(一)は否認する。

4 同4は認める。

三  抗弁

1 賃料不払による解除―請求原因1に対し

(一) 原告は、平成元年三月一日以降の賃料の支払をしない。

(二) 被告は、平成二年六月一日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、右賃料不払を理由に、原告と被告との間の本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

2 一時使用目的の賃貸借の期間満了による終了―同2に対し

(一) 被告と補助参加人との間の本件土地賃貸借契約は、その時々における特定の工事に伴う臨時作業員宿舎、車両の駐車場及び材料置場として使用するための一時使用目的で締結されたことが明らかなものである。

(二) したがって、当初契約時から借地法の適用のない賃貸借として契約期間は二年とされ、契約期間満了による終了とともに、新たに一時使用目的の賃貸借契約が締結されてきたところ、昭和六二年三月一日に締結された一時使用賃貸借契約では契約期間は昭和六四年(平成元年)二月二八日までとされ、右期間満了とともに、被告と補助参加人との本件土地賃貸借契約は終了した。

3 賃料不払による解除―同2に対し

(一) 補助参加人は、平成元年三月1日以降の賃料の支払をしない。

(二) 補助参加人と被告との間の本件土地賃貸借契約は、「補助参加人が賃料の支払を怠ったときは、被告は直ちに本契約を解除することができる」との無催告解除の特約がある。

(三) 被告は、平成二年六月一日の本件口頭弁論期日において、補助参加人に対し、右賃料不払を理由に、補助参加人と被告との間の本件土地についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

四  抗弁等に対する認否

1 抗弁1の(一)は否認する。

2 抗弁2は否認する。

被告と補助参加人との間の本件土地賃貸借契約は、二五年以上の長きにわたり継続されており、被告のいう「一時使用の目的」は借地法を潜脱する意図に出たもので、契約当初から短期間に限って借地権を設定したものであることを認める客観的合理的な理由は全く存在しない。

3 同3の(一)、(二)は知らない。

(反訴について)

一  反訴請求原因

1 被告は、本件土地を所有している。

2 原告は、遅くても平成元年三月一日以降、本件土地上に別紙第二物件目録一ないし六記載の建物(以下「本件一ないし六の建物」という。)を所有して、本件土地を占有している。

3 本件土地の平成元年三月一日以降の相当賃料額は、一か月六八万円である。

よって、被告は、原告に対し、本件土地の所有権に基づき、本件一ないし六の建物を収去して本件土地を明け渡すことを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求として、平成元年三月一日から右明渡済みまで一か月六八万円の割合による損害金の支払を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

すべて認める。

三  反訴抗弁

本訴請求原因1ないし3記載のとおり

四  反訴抗弁に対する認否

本訴請求原因に対する認否1ないし3のとおり

五  反訴再抗弁

本訴抗弁1ないし3のとおり

六  反訴再抗弁に対する認否

本訴抗弁に対する認否1ないし3のとおり

第三  証拠<省略>

理由

第一本訴について

一請求原因1については、これを認めるに足りる証拠はない。

なるほど、原告において本件土地を家屋建築敷地として使用することを承諾する旨記載された被告の承諾書<証拠>が存在するが、右承諾書は、後記認定のとおり、昭和五五年八月頃、既設の作業員宿舎の建て替えにあたり、補助参加人の要請により、その下請業者である原告が雇用促進事業団から作業員宿舎整備助成金を受給できるよう被告において協力する趣旨の下に交付されたに過ぎないものであるうえ、原告代表者自身、被告と本件土地についての賃貸借契約を結んだことも、本件土地の賃料を被告に支払ったこともないことを明言しているのであるから、前記承諾書の存在をもって、本件土地につき、原告と被告との間に直接賃貸借契約が成立したものということができないことは明らかである。原告の主位的請求は理由がない。

二1  請求原因2の事実中、被告が昭和四〇年頃本件土地を補助参加人に賃貸したことは当事者間に争いがなく、証拠<省略>によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 被告は、昭和三七、八年頃、当時、川越街道の土木工事を請負っていた補助参加人からの申入れにより、本件土地を、右工事のための材料置場及び駐車場として、一時限り使用する目的で賃貸した。その後、補助参加人は、下請業者の井上工業に所属していた高橋信夫(原告の代表者)が独立するにあたり、その従業員のための宿舎の確保が必要となったため、昭和四〇年頃、被告に対し、本件土地を補助参加人の請負工事の下請業者の作業員宿舎としても使用したいので仮設建物の設置を認めてほしい旨申入れ、被告から、簡単に撤去可能な仮設建物に限り設置することの了解を得た。

(二) このように、被告と補助参加人との本件土地賃貸借は、補助参加人が請負うその時々の特定の工事を施行するにあたっての下請業者の作業員宿舎並びに材料置場及び駐車場として一時限り使用する目的での賃貸借であることについて当事者が相互に了解し、締結されたものであったことから、権利金の授受はもとより、作業員宿舎建築にあたっての承諾料の授受もなされなかった。そして、賃貸借の継続にともない、その後ほぼ二年ごとに被告と補助参加人との間で作成され取り交された契約書には、本件土地を、「かずさカントリークラブ建設土木工事」、「葛西処理場建設工事」、「小竹地下鉄建設工事」といった、補助参加人がその時々において請負っていた特定の工事に伴う臨時作業員宿舎に使用し、その他の空地を車両の駐車場及び材料置場とし、建物は所有の目的としないこと、契約期間は二年とし、被告は、右契約期間中といえども必要と認めた場合は、六か月の予告期間をもって本件土地の返還を請求できること、本件土地の賃貸借が借地法の適用をうけない一時使用のものであること等が明記された。

(三) 補助参加人は、昭和四〇年頃、原告(昭和四二年一〇月二日の会社設立前は、その前身である原告代表者の個人事業)に対し、本件土地を転貸し、原告は、その頃、補助参加人から仮設建物用資材の有償貸与を受けて本件土地上に四棟の宿舎用仮設建物を組立て設置し、以来、補助参加人の下請業者として、本件土地を作業員宿舎敷地及び駐車場に使用するようになった。そして、本件土地の賃料については、補助参加人が被告に対し支払い、原告からは、右賃料額と同額の転貸料と前記宿舎用資材賃料とを、原告に支払うべき下請工事代金額から差し引き精算する方法で受領していた。なお、後記昭和五五年の建て替え以後は、昭和五八年九月一日補助参加人から原告に宿舎用資材の売却がなされるまで、建て替え収去されなかった一棟分の宿舎用資材賃料について精算がなされた。

(四) その後、昭和五五年八月頃に至り、既設の作業員宿舎三棟が老朽化したため、補助参加人は、被告に対し、その建てかえについての許可を求めたところ、被告は、従前どおりの容易に撤去可能なプレハブの仮設建物であれば建て替えてよい旨承諾し、その際、補助参加人の求めに応じ、その下請業者である原告が雇用促進事業団から作業員宿舎整備助成金を受領できるよう協力する趣旨で、「本件土地を貴殿において家屋建築敷地として使用することを承諾する」との記載のある承諾書に土地所有者として記名押印し、補助参加人に交付した。そして、原告は、右承諾書等を提出して雇用促進事業団から前記助成金の受給資格認定を受けたうえ、旧宿舎三棟を取り壊して、新たに三棟の作業員宿舎を組立て設置したが、建て替え後の作業員宿舎も、従前の宿舎と同様、建築確認申請を受けていない、ボルト締めの容易に解体可能なプレハブ造の建物とされた。

(五) 被告は、東京都水道局から水道幹線工事のために本件土地の一部を使用させてほしいとの申入れがあったことから、昭和五八年九月一日、補助参加人に対し、前記契約条項に基づき、本件土地のうちの一部(623.23平方メートル)の返還を請求した。これに対し、補助参加人は、右請求に異議なく応じ、直ちに原告にその旨通告して、同年一〇月一〇日までに、作業員宿舎二棟等を収去移転させるなどして原告から本件土地の一部の返還を受け、これを被告に返還した。そして、被告は、右返還を受けた本件土地の一部を、東京都水道局に同年一〇月一一日から昭和六一年八月三一日まで一時使用目的で賃貸したが、右期間満了後は、再度、補助参加人に対し、従前どおり一時使用目的で賃貸し、補助参加人はこれを原告に転貸した。

なお、原告は、右作業員宿舎二棟の収去移転に伴い、東京都水道局から、四四七三万五〇〇〇円の物件移転補償料の支払を受けているが、右補償料中には、本件土地の使用料は含まれていない。

(六) 被告と補助参加人との間の本件土地賃貸借は、補助参加人の側でのその時々における工事の必要性もあって、二年の契約期間の満了毎に改めて当事者間で契約書を取り交す方法により期間が延長されてきたが、被告は、相続税対策のため本件土地の有効利用を図る必要があることから、昭和六三年八月二三日、補助参加人に対し、最終更新時に定めた期間満了の日である昭和六四年(平成元年)二月二八日限り本件土地賃貸借を終了させる旨の通告をした。右通告に対し、補助参加人はこれを了承するとともに、原告に対し、本件土地の転貸借を終了させることを通告し、平成元年二月二八日の期間満了をもって、被告と補助参加人との間の本件土地の賃貸借は終了し、これに伴い原告と補助参加人との間の本件土地の転貸借も終了したとして、平成元年三月一日以降、被告に対し賃料を支払っていないばかりか、原告からの転貸料の差し引き精算もしていない。

以上の事実を認めることができ、原告代表者及び被告本人の供述中、右認定に反する部分は採用できない。

2 右認定事実によると、被告と補助参加人との間の本件土地賃貸借は、当初から、被告が請負う特定の工事に伴う下請業者の臨時作業員宿舎並びに材料置場及び駐車場として一時使用の目的をもって賃貸されるものであり、借地法の適用をうけない契約であることを当事者双方が承認する旨を明示して締結されたものであることが明らかであって、それが借地法の規定の適用を潜脱する意図に出たものとも認められないから、被告において特に短期間に本件土地の返還を受けなければならない事情は見当たらず、結果的には約二五年の長きにわたって更新が繰り返されたとしても、借地法九条にいう「一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合」というを妨げないというべきである。

そうすると、被告と補助参加人との間の本件土地賃貸借は、最終更新時に定めた期間満了の日である平成元年二月二八日限り、期間満了により終了したというべきであるから、抗弁2は理由がある。したがって、予備的請求①は失当である。

三請求原因3については、前記認定のとおり、原告は補助参加人から本件土地の転貸を受け、補助参加人に対し下請代金からの差し引き精算により本件土地の賃料を支払っていたものであることが明らかであるから、原告主張のごとき被告に対する賃借権の時効取得が成立しないことはいうまでもない。予備的請求②は理由がない。

第二反訴請求について

一反訴請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二反訴抗弁及び反訴再抗弁2についての判断は、前記第一の一ないし三で判示したとおりである。

第三結論

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、被告の反訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官土居葉子)

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